セルフアドボカシーとは
多くの方にとって、まだ聞き慣れないことばではないかと思います。今回は、セルフアドボカシーについてまとめてみたいと思います。
アドボカシー
- アドボカシーとは、「権利擁護」と訳される。
- 知的障害などによって自分の権利やニーズを表明しにくい者に対して、援助者がそれらを代行すること。
セルフアドボカシー
- セルフアドボカシーとは、「自己権利擁護」と訳される。
- 障害のある人が、自らの権利を守るために主体的に環境に働きかけること。
近年、注目されるようになっている
- セルフアドボカシーは、「権利擁護は常に当事者から出発しなければならない」という主張をもとに、1960年代のスウェーデンにおける知的障害者支援の過程で生れた概念。「親の会」において、知的障害者本人たちが参加するようになる過程で生まれた。
- スウェーデンで生まれたセルフアドボカシーの思想や実践は、ノーマライゼーションの考え方とともにイギリスやカナダでも広がっていった。
- 欧米では障害がある人への支援プログラムとして、日常生活スキル、ソーシャルスキル、アカデミックスキルとともに、アドボカシースキルが取り組まれている。
- 2016年に施行された「障害者差別解消法」によって、障害を理由とした差別の禁止とともに、合理的配慮の提供が定められた。この合理的配慮の提供に際しては、当事者からの意思表明が前提とされている。このような中で、もともと障害者福祉の領域で発展してきた「セルフアドボカシー」の概念が、教育の領域でも注目されるようになってきた。
発達障害のある人のセルフアドボカシー
発達障害のある人にとってのセルフアドボカシーで重要なこと
「自己理解」
自分一人でできることと、周りの支援を得てできることがわかる
「援助を求める力」
何をどのようにしてほしいのかを他者に求めることができる
セルフアドボカシーの育成
1,障害特性を踏まえ、自分にとって何が必要なのかを正しく知ること
- 自分の苦手な部分と向き合うことにつながるので、自己肯定感を下げる可能性もある。
- 「できない自分が悪いのではない」ということを理解していくことも重要。
2,それを使って、『うまくいった』と実感すること
- セルフアドボカシーは成功体験を積むことにより、また次もやってみようと意欲が高まる。
3,そのための交渉の仕方を経験させていくこと
- 合理的配慮における「合意形成」にはコミュニケーション能力が必要。
- 発達障害のある人にとっては、苦手な分野と重なる。
まとめ
明日、4月1日に「改正障害者差別解消法」が施行されます。国や自治体だけでなく、民間の事業者も、障害のある人から困りごとなどについての申し出があった場合に合理的な配慮を行うことが義務づけられます。自ら求めれば、「合理的配慮」を受けられる機会は増えています。国の制度も少しずつ変わってきていますが、発達障害のある人が、より能力を発揮していく社会になるには、「合理的配慮」や「セルフアドボカシー」といったことばがもっと広く浸透していくことが必要だと考えます。
参考文献
- 一般財団法人日本LD学会編,LD・ADHD等関連用語集第3版:p.8,日本文化科学社,2011.
- 薬師寺明子, 知的障害者における本人活動への支援~「本人の会」立ち上げに向けて~, 美作大学・美作大学短期大学部紀要,2010;55:91-100.
- 鳥居深雪,LD ADHD&ASD No.28,セルフアドボカシーのポイント:自己理解と援助要請・主張性:8-9,明治図書出版株式会社,2022.
- 片岡美華,LD ADHD&ASD No.28,発達障害のある人の「セルフアドボカシー」:10-13,明治図書出版株式会社,2022.
- 伊藤陽子,LD ADHD&ASD No.28,正しい自己理解と成功体験をもたせて:22-25,明治図書出版株式会社,2022.
- 障害者差別解消法 | 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト (shougaisha-sabetukaishou.go.jp)