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高齢者におけるパンの危険性

「柔らかいからパンは食べやすい」と思われている方が時々いらっしゃいます。しかし、高齢者の方にとって、パンは危険な食べ物となる場合があります。今回は、「高齢者におけるパンの危険性」についてまとめてみます。

高齢者の嚥下機能1)

  • 高齢者の嚥下機能には,加齢による嚥下機能の低下(嚥下反射の遅延・唾液分泌の減少・喉頭位置の低下など)の部分と、多くの高齢者がもつさまざまな病態(歯牙の欠損・頸椎変形やアライメントの不良・内服薬副作用など)による修飾があることが指摘されている。
  • 高齢者の嚥下機能の低下(presbyphagia:老嚥)は必ずしも病的な状態とは言い難い。多くの高齢者が、低下した嚥下機能を有しつつ、食事を摂取し、誤嚥性肺炎を起こしていない。
  • しかしながら、さらに高齢化したり、要介護状態になったり、病気などで全身状態が悪化したことを契機に、嚥下障害が顕在化する。

パンの特徴

  • 軟らかいパンであっても、筋電図によって求められる咀嚼量は白飯より高値であった。2)
  • 食パンは圧縮されると固く縮まり固体のように塊となる。これは咀嚼しないでパンを嚥下した状況に類似しており、一気に喉に詰め込むとパンは固く締 まり喉に詰まりやすい。適切な咀嚼が行われず、食塊形成が不十分な状態で丸呑みすると、窒息を引き起こす可能性がある。3) 4)
  • パンが喉に詰まった場合、パンの表面を唾液が覆おうと付着性が増加し、吐き出しにくくなる。3)

入所中の高齢男性がパンで窒息

名古屋市西区特別養護老人ホームで、入所中の男性(当時88歳)がパンを喉に詰まらせて死亡したのは職員らが見守りを怠ったのが原因だとして、遺族が施設側に計約2960万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が7日、名古屋地裁であった。藤根康平裁判官は施設側の安全配慮義務違反を認定し、計約2490万円の支払いを命じた。判決によると、男性は要介護認定を受けて施設に入所していた2021年11月、朝食のロールパンを喉に詰まらせて窒息死した。男性は約1か月前にもロールパンを喉に詰まらせていた。訴訟で、施設側は「男性は自分で食べることができたので、常に見守る義務はなかった」と主張。これに対し、藤根裁判官は「これまでと同じ態様で食事を提供すれば、より重篤な結果が生じる危険性を認識できた」と、施設側の賠償責任を認めた。

名古屋の特養ホームで男性がパンを詰まらせ死亡、賠償命令…「危険性を認識できた」 : 読売新聞

 

高齢者の窒息の危険因子5) 

「認知機能の低下」
「食の自立」
「臼歯部咬合の喪失」

介助なしで、食事を自己摂取している高齢者の場合には、認知機能の低下があると適切な一口量やペースが維持できず、丸飲みや詰込みが認められ、危険です。もちろん、歯がない方の場合には咀嚼・食塊形成が不十分になってしまうので、よりその傾向が高まります。

まとめ

柔らかいため、一見食べやすそうなパンですが、高齢者にとってパンは窒息の危険性の高い食べ物だということがわかります。
食事動作が自立できていても、普段むせ込みがなくても、認知症があり適切な一口量やペースが維持できない方には、食事中にしっかりと見守りを行う必要があります。

参考文献

  • 1)藤谷順子,高齢者の嚥下障害,Jpn J Rehabil Med 2018;55:234-241.
  • 2)神山かおる 他, 和食・洋食一食中における主食の咀嚼量,日本咀嚼学会雑誌,2003;12(2):75-81.
  • 3)向井美惠(主任研究者),平成20年度厚生労働科学特別研究事業 食品による窒息の要因分析-ヒト側の要因と食品のリスク度-,2009:16-24.
  • 4)園田隆紹,要介護高齢者における誤嚥・窒息事故予防としての咀嚼機能維持の重要性について, 日口腔インプラント誌,2015;28(4):469-476.
  • 5)向井美惠(主任研究者),平成20年度厚生労働科学特別研究事業 食品による窒息の要因分析-ヒト側の要因と食品のリスク度-,2009:25-33.